これで、もう『ぎゅっとする』の突撃はしてこないだろう。
理樹はそう思って、離れ難い手を――ようやく解いて彼女を自由にした。
「戻るぞ」
そう声を掛けたところで、沙羅がこれまでにないくらいに沸騰した真っ赤な顔で、茫然としていることに気付いた。
彼女は抱き締められた事実を思い返すように、自身の身体を見下ろして、それから再びこちらへと視線を戻してきた。口をパクパクとさせているものの、声が出てくる様子はない。
変な少女である。理樹はつい、小さく笑ってしまった。
前世で妻とした時にも、結婚式から初夜、初夜から一週間の新婚祝日期間にも同じ表情を何度も見た。それが、なんだかおかしかった。彼は柔かく笑んだ顔を見られないよう、ギシリと軋んだ胸の痛みを過去に追いやりながら踵を返した。
「じゃ、先に行くからな」
俺は悪党みたいな男だ、だから待たない。
そう思いながら理樹は後ろ手を振り、彼女を部室に残してそこを後にした。
理樹はそう思って、離れ難い手を――ようやく解いて彼女を自由にした。
「戻るぞ」
そう声を掛けたところで、沙羅がこれまでにないくらいに沸騰した真っ赤な顔で、茫然としていることに気付いた。
彼女は抱き締められた事実を思い返すように、自身の身体を見下ろして、それから再びこちらへと視線を戻してきた。口をパクパクとさせているものの、声が出てくる様子はない。
変な少女である。理樹はつい、小さく笑ってしまった。
前世で妻とした時にも、結婚式から初夜、初夜から一週間の新婚祝日期間にも同じ表情を何度も見た。それが、なんだかおかしかった。彼は柔かく笑んだ顔を見られないよう、ギシリと軋んだ胸の痛みを過去に追いやりながら踵を返した。
「じゃ、先に行くからな」
俺は悪党みたいな男だ、だから待たない。
そう思いながら理樹は後ろ手を振り、彼女を部室に残してそこを後にした。