とはいえ、そんな個人的な事情などは、どうでもいい。
 俺は当初の予定通り、伯爵家と繋がりを持つべく、まずは彼女をダンスに誘った。

             ※※※

 随分と古い記憶を夢に見た。いつの間にか眠ってしまっていたらしい。

 昼休みに部室にある椅子を繋げて、横になったのは弁当を食べてすぐのことだ。目を閉じたままそう思い返していると、懐かしさと共に頬に触れる覚えのある柔らかな髪の感触がして、理樹はふっと瞼を持ち上げた。

 目を開けると、こちらを覗きこむように見下ろしている少女の顔があった。一瞬、結婚したばかりの妻が、またしても近くから寝顔を観察しているという、よく分からないいつものやつをやっていると錯覚しそうになった。

 拳一個分しかあいていない距離にあったのは、沙羅の顔だった。理樹はそう遅れて理解したところで、やんわりと眉間に力を入れて見せた。

「………何してんだ?」
「!? お、おおおはようございます九条君ッ」

 沙羅が頬を赤く染めて、ぱっと頭を上げて慌てたようにそう言った。