初めて顔を合わせたのは、滅多に顔を出さない上流階級の夜会だった。俺は彼女のことを聞いて知っていて、そして何も知らない振りをして声をかけたのだ。


――初めまして、リチャード・エインワースと言います。


 十六歳にしては華奢で顔も幼いながら、儚い美貌に弱々しい笑みを浮かべていた彼女の大きな空色の瞳が、こちらを見て少しだけ見開かれた。

 誰だろう、と疑問に思ったのかもしれない。

 多分、警戒されたのだろうと俺は思った。

 彼女は社交が狭い。今の婚約者以外の男とはほとんど交流がなく、それは伯爵家である彼女の両親の意向でもあるとは勘付いていた。きちんと結婚させるまで何かあってはいけないからと、檻に閉じ込めるように行動範囲を制限するのはざらにあることだった。

 彼女は数年前からずっと、悪役令嬢として同性からも距離を置かれている。いつも義務のように婚約者の参加するパーティーへ出席し、壁際にひっそりと立って踊りもしないまま過ごすのだ。