「進歩がない」
「ぼそっと酷いことを言うなよ聞こえてるからな!? 彼女は僕と特訓したんだぞッ、ちゃんと上達してる!」
「下心満載の特訓風景が浮かぶようだ」

 理樹は、間髪入れずそう呟いた。
 それを聞いた拓斗が「確かに」と察したとばかりに相槌を打つと、沙羅から手を離したレイがすかさず言い返してきた。

「下心ってなんだ! あらゆる角度からビデオ撮影しただけだぞッ」

 そう怒ったように叫び返した台詞が、高校の正門から周囲へと響き渡った。
 登校中だった周りの男子生徒たちが「じゅうぶん変態だろ」と、通りがてらドン引きの目を向けた。

 その時、通学鞄を持ち直した沙羅が、くるりとこちらを振り返った。

 軽いスカートがふわりと舞い、一瞬形の良い太腿のふっくらとしたラインまで見えて、周りの男子生徒――ではなくレイが鼻を押さえ「くそッ、カメラを持ってこれば良かった!」と悔しそうに言った。

 理樹は、行動そのものが男にしか見えない、そして尚且つ危ない変態としか思えない、現在のところ一年生で唯一の風紀部員である彼女に、残念なものを見る目を向けた。
 そんな中、沙羅が元気に笑ってこう言った。

「九条君、おはようございます!」
「お前も自分ペースだよな」

 友人の変態性に気付かないとは、鈍すぎるにもほどがあるのではないだろうか。