一組の担任であり歴史担当の教師である鈴木が、一時間目の授業開始前に気遣うような笑顔で「ご両親から、恐らく復帰は来週くらいになりそうだと聞いているよ」と告げた。
 けれど、あの木島でさえ、その件に関して詳細情報を求める態度は見せなかった。

 学校はやけに平穏だった。いつもの煩わしい視線はなく、同じ教室にいる拓斗やクラスメイトから、昨日の話題を蒸し返するような話題が出されることもない。彼女贔屓の女子生徒たちも「沙羅ちゃん、早く学校に来られるといいね」といった話しすらしなかった。

 静かな様子が返って気になった。一時間目の授業が終わった休み時間、トイレ休憩に立った際に、じっと視線を送ってくる見知らぬ生徒がいて「何か用か」と尋ねてみた。すると、労うような笑みと共に「お疲れ様」とクラスメイトと同じ言葉をかけられた。

 これは妙だと思って、教室に戻って拓斗に訊いてみた。
 すると、彼がこう教えてくれた。

「俺もさっき知ったんだけどさ。彼女の意思を出来るだけ尊重して、そっと見守ることにしたらしいぜ」