拓斗はすぐに理樹のもとへ走り寄り「保健室の扉は俺に任せろ、親友」と、瞳を輝かせてそう言った。そして、くるりと振り返りレイに向かって「大丈夫そうならお前も来いよ」と愛想良く手招きする。

 レイは隣りに来ていた、自分よりも頭一個分以上も背丈のある二人の先輩風紀部員に、そろりと伺う目を向けた。
 彼らが苦笑を浮かべ、「行ってこい」と言った。レイは黒曜石のような瞳を輝かせると、走り出しながら理樹と拓斗に向かって「僕も行くぞ!」と大きな声を投げた。


 走り去っていく足音が遠ざかるのを聞きながら、宮應が顔を覆った手の隙間から、涙をこぼして「ごめんなさい」と虫が鳴くようなか細い声を上げた。
 
「……ごめんなさい、桜羽沙羅さん。あなた、本当に彼のことが『好き』なのね」

 理樹たちを見送った西園寺が、慰めるようにそっと宮應を抱き寄せた。同じ背丈をした彼女の背中を撫でながら、優しい声色でこう言った。

「人の恋に首を突っ込むのなら、相応の覚悟がなきゃダメなんだよ、宮應君」

 僕だって去年まではライバルが多くて大変だったんだから、と西園寺は心の中で呟いた。