沙羅を抱き上げた理樹が歩いていくのを、森田がそっと見送った。誰も何も言わず、第一レーンの上を進む彼を目で追い、そして理樹は――


 沙羅を腕に抱えたまま、ゴールラインを踏んだ。

 
 ゴール到着と同時に、西園寺がタイミング良くホイッスルを鳴らした。場に満ちていた、どこか緊張した沈黙が解けて、安堵の息をこぼれる吐息が聞こえ始めた。

 強い緊張状態が解けたのか、腕の中の沙羅がふぅっと目を閉じてこちらに身を預けてきた。理樹は、意識を手放した彼女の寝顔を見下ろし、それから、何も言わず視線を戻した。

「おめでとう。桜羽沙羅君の勝ちだよ」

 そう告げてきた西園寺の方を見やった理樹は、そばに生徒会長の宮應静がいることに気付いた。彼女は両手で顔を覆い、その肩を小さく震わせて泣いていた。

「……勝負は終わった。保健室に預けてくる」

 西園寺にそれだけ告げると、理樹は踵を返して校舎に向かって歩き出した。