腕の中で、沙羅が少し慌てた様子で「ちょ、待って」「降ろして下さい」と言った。理樹は、落とさないと伝えるように更に腕に力を込めた。
「降ろさない、このまま進んだ方が早い」
「で、ででででも九条君ッ、私すごく重いか――」
「別に重くない」
そう返しながら、理樹は、前世で同じやりとりをしたことを思い出した。初めて婚約者として出席したパーティーで、早退するべく彼女をこうして運んで『君は重くない』と言ったのだったか。
腕の中でふと大人しくなった沙羅が、制服をきゅっと握り締めてきた。
「…………どうして、こんな時に優しくするんですか」
「俺は優しくはない。ただ、目の前にうずくまってる女がいたからだ」
彼女を抱き上げている腕や胸板に感じるその温もりも重さも、まるで前世で生きていた頃と何一つ変わらなかった。ただ、自分の身長だけが違っているのだ。
今の俺は、二十六歳の大人ではないから。
抱え上げるたびに、君が『高いです』と言ってくれた身長にはまだ届かない。
「降ろさない、このまま進んだ方が早い」
「で、ででででも九条君ッ、私すごく重いか――」
「別に重くない」
そう返しながら、理樹は、前世で同じやりとりをしたことを思い出した。初めて婚約者として出席したパーティーで、早退するべく彼女をこうして運んで『君は重くない』と言ったのだったか。
腕の中でふと大人しくなった沙羅が、制服をきゅっと握り締めてきた。
「…………どうして、こんな時に優しくするんですか」
「俺は優しくはない。ただ、目の前にうずくまってる女がいたからだ」
彼女を抱き上げている腕や胸板に感じるその温もりも重さも、まるで前世で生きていた頃と何一つ変わらなかった。ただ、自分の身長だけが違っているのだ。
今の俺は、二十六歳の大人ではないから。
抱え上げるたびに、君が『高いです』と言ってくれた身長にはまだ届かない。