レイたちを含めた、見守っている多くの人間がチラチラと風紀委員長に目を向けるが、西園寺は人形のような美麗な顔を沙羅に向けたまま、じっとして動きだす様子は微塵にも見せなかった。

 気付いたら理樹は、後ろ手を組む西園寺を通り越して、第一レーンの中腹に座りこむ沙羅のほうに向かって歩き出していた。

 一同が固唾を呑んで見守る中、すぐに触れられる距離で足を止める。

 そのまま背を屈めて手を差し出したら、沙羅が頬を涙に塗らした顔を、ゆっくりとこちらへ向けてきた。彼女に手を差し出していることに、理樹は既視感を覚えたものの顔には出さなかった。

 よくあった光景だと、そんな想いが脳裏を掠めた。


「ほら。手を取れ」


 そう告げたら、沙羅がだだをこねるように「いや」と言って、手を庇うように胸元に引き寄せ、ぽろぽろと涙をこぼしながら首を左右に振った。

「嫌です。だって私、諦めたくな――」
「ゴールまで走るんだろう?」

 理樹は淡々と、いつもの口調でそう尋ねた。