沙羅と風紀委員会の面々、そして生徒会長がいる方へ顔を向けて、もう勝負は終了するべきだと促した。その教師陣の声が強めに上げられた時――


「嫌です!」


 地面に尻をついたまま、沙羅が悲鳴や怒鳴り声ともつかない大きな声を出した。真剣なのだと伝わる張り詰めたその叫びは、つんざくように耳に入ってきて、この場にいた全員が揃ってびっくりしたように彼女を見た。

 沙羅は、震える両手が地面に立っている様子を見下ろし、もう一度「嫌ですッ」と震える声で言った。

「私、絶対に負けたくありません! だって、私は、本当に九条君のことが好きなんです。だから、ほんの少しの間だって、諦めたく、ない…………ッ」

 そう言いいながら、沙羅は競走相手の森田を睨みつけた。けれどその大きな瞳からは、こらえきれない涙がボロボロとこぼれ落ちており、彼女は「負けたくないのよ」「少しの間でも諦めるだなんて、嫌なの」と泣いていた。

 どうして、と理樹は口の中に小さな囁きを落とした。