ようやく運動シューズの底が地面についたと思ったら、震える四肢が地面を滑って膝をつく。それが何度も繰り返されて、数分待っても、沙羅の静かな格闘が続くばかりだった。

 風紀部員として役目を務めながら見守るレイは、今にも泣きそうな顔をしていた。離れて立つ大柄な先輩風紀部員二人が、「大丈夫か……?」と気遣うように声をかける。
 審判を務める風紀委員長の西園寺も、もうホイッスルから手を離していた。風紀委員会としてこの勝負を最後まで見届けるとでもいうように、手を後ろに組んで、ただ粛々と立つ。


「もう、やめてよ、沙羅ちゃん……」


 そう呟く誰かの声が聞こえた。すっかり鼻声だった。

 それをきっかけに、女子生徒たちだけでなく、男子生徒も「もうじゅうぶんだろう」と言い始めた。近くまで来ていた運動部の少年少女たちも「もう無理よ」と、ひどく心配するように声を投げる。

 顧問教師たちが、もう見てられないとばかりにこちらへ歩み出した。