既に彼女の疾走は、勝負スタート時の半分の速度も出ていなかった。限界を超えた両足はよろけるようにもつれるのに、それでも沙羅は歯を食いしばって、震える足を引きずるように前に進むのだ。

 どうして頑張るんだ、今だって運動は苦手なんだろう? 

 もう、頑張るなよ。

 その時、再び沙羅が転んだ。何十回目か分からない転倒だった。
 立ち上がろうとする足は、産まれたての小鹿のように震えていて、身を起こそうと支える細い腕だけがピンと立っていた。

「…………お願いだから、私の足、立って」

 誰もが動きを止めて見守る中、静まりかえった運動場に、力を振り絞るように歯を食いしばり言う沙羅の声が聞こえた。

 対戦相手の森田は、既に第二レーンの中腹で足を完全に止めてしまっていた。沙羅が再び立つのを待つかのように佇む彼女の顔は真っ青で、もはや走るという意識すら抉られてしまっているようだった。

 沙羅は、細い腕の両手を地面に置き、必死に立とうと努力していた。