運動部の部活動顧問の教師たちも、彼らを注意することなくこちらを観察していた。さすがにもうそろそろ止めてあげてもいいんじゃないだろうか、という顔をしている。


 必死に走る沙羅は、向けられるそんな視線など気付いていない様子だった。

 森田に遅れてゴールライン上に踏み込むたび、先に完走していた彼女に向かって、沙羅は「もう一回お願いします」と素早く頭を下げて頼んだ。震える膝に手をあてて息も切れ切れに、必死に呼吸を整えながらそう告げるのだ。

 風紀委員長の西園寺は、その様子を間近で見ながらも涼しげな表情を変えず、そのたび止めもせずに手で合図を送って、二人にまたスタートラインに戻るよう指示を出した。何度も何度も、沙羅が「もう一回お願いします」と言うたびに自動的な動きを繰り返す。

 どうして、あんなに必死に頑張るのだ。

 西園寺のすぐそばで見ていた理樹は、知らず拳を握り締めた。

 もう何十回、スタートを告げるホイッスルが鳴ったのか分からない。後頭部で一つにまとめていた沙羅の髪は乱れ、汗に濡れた頬は、転んだ際に土が付いて体操着もすっかり汚れてしまっている。