二人の走力の差は圧倒的だった。というより、沙羅があまりにも遅すぎた。
 その走る遅さは、隣を走っていた三年生の森田が「え」と思わず三回ほど振り返り、様子を見守っていた生徒たちも唖然と目を見開いて凝視してしまったほどだった。本気で走っているのだろうか、と思ってしまうほどに遅いのだ。

 十六歳にしては発育のいい胸を重そうに揺らせて、沙羅は頼りないフォームで、けれど本人はかなり必死に真剣な顔で五十メートルを駆けた。

 走ることなんて滅多にない、とばかりに沙羅には不向きな勝負だった。

 何度もホイッスルが鳴らされ、何度も彼女が負けた。持ち前の運動神経のなさで、走りながら途中で自分の足に絡まって派手に転倒し、躓(つまづ)いて転ぶのもしょっちゅうあった。彼女が自分の運動シューズの紐を踏んでしまった時は、見ていられないとばかりに、見守っていた女子生徒たちが目を塞いだ。


 次第に、運動場に広がって部活動をしていた陸上部やサッカー部、外周を走っていたバスケット部やバレー部の女子たちも、足を止めて沙羅の真剣さを見守り始めた。