それに気付いていないのは当の生徒会長だけで、もしかしたら二学年、三学年では有名な話なのかもしれない。だからこそ、校舎内から見学している他学年生の見学人も多いというのも理由にはあるのだろうか。

 それにしても、この風紀委員長も厄介である。

 指摘されずとも、そんなことくらい、理樹は自分で一番よく分かっていた。
 先程から必要以上に握り締められた彼の拳は、とうに白くなっていた。

 スタートライン上に立った沙羅と森田が、どちらも自由に崩したスタンディングスタートを構えた。その様子を確認した西園寺が、利き手ではない方の手を腰にあて、右手に持ったホイッスルを口許まで上げた。


「位置について――」


 そう風紀委員長の西園寺が口にして、準備を促すように一度言葉を切って、ホイッスルを口にくわえる。
 五十メートル競走のスタート地点にいる二人の少女が、多くの視線の注目を受けた状態で、それぞれ拳を握りしめて両足に力を入れた。

 そして、勝負開始のホイッスルが鳴らされた。