「目はその人自身を語るというけれど、君と実際に会って、短い会話をした時にそれを感じた。だから、僕としては今の状況に違和感を覚えるわけだ」
「………………」
「君は人を見る目があって、別離を決意するほどの強くハッキリとした根拠といった物がなければ、拒まないタイプの人間だと思うんだ。僕が想像しているそんな人物であれば、既にこの関係には終止符が打たれているはずなんだよね。その方が、彼女自身を迷わせないで済むから。けれど、君はそうしていない」

 第一レーンにいる沙羅と、第一レーンにいる森田が、生徒会長である宮應に合図を送ってスタートライン上での待機に入った。

 こちらから後方にいる見物者の生徒たちが、始まる様子を心配そうに待っていた。彼らに背中を向けるように西園寺の近くに立っていた理樹は、そこにいる拓斗から「何か風紀委員長と話しているのか?」と問い掛けてくる視線に気付かない振りをした。