十歳も年下の少女だった。そして、数十年も早くに逝ったのを見届けた。

 汚名だと嗤われた悪役令嬢の名が、社交界から消えることはなかった。そして自分もまた、悪党みたいな貴族だった。
 結婚は共同経営のようなものでしょう、次は私なんていががかしら……そう何人の女性に声を掛けられたか分からない。


 そう、悪党みたいな人間だったのだ。だから、きっと罰(バチ)が当たった。

 神様は奇跡を起こしてはくれなかった。どうせなら、出会う前からやり直してくれれば良かったのだ。彼女があの令息と婚約する前に戻して、彼女が一番目に愛し続けられる別の誰かを与えてくれれば。


 そうすれば、俺が声を掛けずに済んだ。
 出会わずに済んだ。

 黙りこむ理樹を、レイはチラリと見やった。無愛想な顔の眉間に珍しく皺も刻んでいない、どこか遠い昔を思い出すような顔をしている横顔に声を掛けられなくて、その視線を拓斗へと戻した。

「……僕は、少しでも彼女の助けになれるように、走るコツとか教えてくる」
「それがいいだろうな。つか、それくらいしか出来ないよなぁ」

 本人がやるって決めちまったことだしなぁ、と拓斗は言って、見送るようにレイに向かって小さく手を振った。

 理樹は蘇った前世の光景の一部を押し留めるように、ぐっと拳を作った。