それほどまでに意思が固いことを示すかのように、止めないで、というように彼女から目も向けられなかったレイが、ショックを受けたようにその場に佇んだ。

 騒がしい廊下に対して、五組の教室内は重い沈黙に包まれていた。誰もが「どうする」と目線を交わすだけで動けずにいる中、拓斗が呆気に取られても尚自分ペース、といった様子で教室の入り口にいたレイに声を投げた。

「なぁレイちゃん、沙羅ちゃんはどれくらい運動が出来ないんだ?」
「僕をちゃん付けで呼ぶなッ」

 そうしっかり注意したレイは、迷うような間を置いた後「沙羅ちゃんは、その、僕が知っている子の中では一番足が遅い、かも……」とぎこちなく視線をそらした。

「なるほどね、沙羅ちゃんはかなりの運動音痴ってことか」

 拓斗が「どうしたもんかね」と吐息交じりに続けて、小さく肩を落とした。
 
 スポーツは出来そうにないもんなぁ、とクラスの男子生徒たちが日頃を思い返して呟いた。沙羅が『ぎゅっとします!』と宣言して挑戦し続けているものが、ことごとく失敗に終わっているのを見ていたせいである。