昼休みに入ったばかりのタイミングで、一学年の桜羽沙羅が生徒会長から唐突な運動対決を求められ、それを了承した。

 しかも、その直後に二人が決めた対決日時は、今日の放課後である。

 一年五組で話し合われた二人の様子については、廊下の外から多くの生徒が見ていた。そのため、実況中継のようにあっという間に一学年のフロアを走り抜け、生徒会長の宮應静と沙羅が話し合いを終了した時には、五組の教室前の廊下には、その話を聞きつけた大勢の一年生が集まっていた。

 五十メートル競走については、勝つまで何度でも沙羅がリベンジ可能のルールとはいえ、運動が苦手だという女子生徒から選ばれるらしい相手の三学年生が、もし彼女より足が速いとしたら、高い確率でほぼ持久力勝負になるだろう。

 宮應が堂々とした足取りで一年五組の教室を出て行ってすぐ、レイが心配でたまらないという顔で沙羅の腕を掴んだ。

「無茶だよ、沙羅ちゃん」
「私、負けないわ」

 そう言った沙羅は、こちらも見ずに踵を返し教室を出て行ってしまった。