宮應の要求は、個人の想いを強制拘束するものではない。けれどこれまでの沙羅の様子を知っている五組の生徒たちは、負ければしばらくはこのような訪問もするな、とどこか押し付けるような宮應の意見については納得も出来ず、勝負自体受ける必要もないのではと沙羅に助言するように呟いた。

 黙って状況を見ていた理樹は、小さな苛立ちを覚えて、沙羅を見つめている宮應に「おい」と声を掛けた。そもそも、そんな勝負が出来る女性ではないと、彼が一番よく知っていた。

「勝手に話し進めるな――」 

 それとほぼ同じタイミングで、まるで理樹の発言を遮るように、沙羅の声が重なった。

「私が勝ったら、先輩はもう何も言わないんですよね?」
「ええ、その通りよ」

 まさか、と理樹は少し目を見開いた。

 同じような言葉を表情に出した生徒たちとレイが小さく息を呑み、拓斗が考え直した方がいいと言わんばかりに「沙羅ちゃん、まさか」と言いかけたが、遅かった。
 宮應を見つめていた沙羅が、ぎゅっと拳を握り締めてしっかりこう告げた。


「――その勝負、受けて立ちます」