「荒事に勃発しそうだったから、手っ取り早く連れ出したってだけだ」

 こちらを振り返り尋ねてきた拓斗に、理樹は横顔を向けたままそう答えた。

 昨日あまり見てもいなかった彼らを改めて観察してみると、学ランの生徒たちは大柄で、いかにも喧嘩っ早そうなグループといった風貌をしていた。

「こんな時に限って風紀委員会は何してんだ?」

 理樹が顰め面をして呟くと、拓斗が「そうだなぁ、こういう時に頼りになって欲しいところだよな」と同意の声を上げた。すると、野次馬のように窓越しに正門側を覗きこんでいた木島が、目を丸くしてこちらを見た。

「お前ら知らないのか? 大丈夫だって、なんて言ったってあの先輩は――」

 その時、正門にいた女子生徒が大きく動いた。先頭にいた学ランの少年の胸倉をつかんだと思ったら、そのまま足払いを掛けて勢いよく背負い投げたのを合図に、残り七名の大柄な少年たちに向かって一気に突っ込んでいった。

 それはさながら、止まらない嵐のようだった。スカートがひるがえるのも構わず、飛び上がった彼女の長い足が別の男子生徒を蹴り飛ばし、靴底を滑らせながら瞬時に体勢を整える。続いて別の少年の腹部へ見事に右ストレートの拳を打ち込み、複数方向からの攻撃を避けながら無駄なく攻撃を返した。