「実は昨日、予定外に食材を買いこみすぎて、仕分けと仕込みに時間をくった」
「うわぁ……お前っていいとこの坊ちゃんのくせに、主婦っぽいところあるよな」
「あれは親の金であって、俺の金じゃないからな」

 五歳の頃に前世の記憶を思い出してから、理樹は将来にも結び付かないような無駄はしないと決めて、小遣いのほとんどを銀行に預金し続けていた。稼ぐ苦労も金の有り難さも、前世で経験して分かっているからだ。

 拓斗が「そのへんもシビアだよな」と、思い出すように言った。

「出会った当初は、てっきり理樹も一般家庭だと思って疑わなかったのが懐かしい……。つか、今のマンションの引っ越し祝いで行った時のさ、お前手製の夕飯メニューがプロ並みだったのが一番の衝撃だった」
「母親が料理に関してはマメな人でな、――まぁ、習っていたらそうなっていたようなもんだ」

 理樹は、料理歴についてはぐらかすように曖昧に告げると、親友をジロリと睨みつけた。