拓斗や木島を含む一同が、そんな理樹へゆっくりと目を向けた。

「……やべぇ、あいつが食べてるのを見ると、普通のクッキーにしか見えねぇ」
「ちょっと味音痴なところがあるのかしら……?」
「だったら相当やばいだろ。つか、あいつ表情筋が固すぎるんじゃね?」
「昼飯代わりに食たべるって言ってたけど、本当に全部食べちゃいそうね…………」

 すると、床に転がっていた木島が、目尻に涙を浮かべたまま理樹の方へ顔を向けてこう言った。

「…………『あいつ本当は桜羽さん好きなんじゃね?』ってうっかり勘違いしそうなくらいの勇者に見えるんだけど」
「うーん、俺としてはそういう恋愛的なのは感じないんだよなぁ……。なぁ親友よ、もしかして外れのクッキーがほとんど残ってないとか?」

 拓斗は、それなら食べたいという期待を込めて、そう尋ねた。

 理樹はそこでようやく、こちらに向けられている彼らへと視線を返した。手に持っている袋へと目を落とすと、また一枚を取り出して口に放り込んでから、その愛想のない真顔を彼らへと戻した。

「ほぼ、不味い。なんの味かも分からん」
「マジかよ。なんてクールフェイスなんだ」

 拓斗と理樹のやりとりを聞いたクラスメイトたちは、愛や恋という理由ではないらしいと解釈したところで、ダメージを受けた舌や胃を癒すべく、それぞれが財布や弁当を持って移動を始めた。