まるで戦地に赴く兵士のような覚悟を見せてそう意気込むクラスメイトたちを見て、理樹は冷静に「そもそも、なんでそこに覚悟と結束を全力投球するんだ」とツッコミを入れた。
 しかし、彼らは理樹の冷静な指摘も聞かず、揃って挙手し、沙羅にこう告げた。

「桜羽さんッ、俺らもそのクッキーを食べたいです!」

 沙羅について来た二人の女子生徒たちが、「実はこっちの袋もそうなのよね」と、苦笑気味に自分たちが抱えている小袋を示した。


 沙羅たち三人からクッキーの入った袋を受け取った五組は、彼女たちの昼休みを邪魔しないよう昼食に行っておいでと見送った後、完食を目指して『クッキーを食べる会』を始めた。


 もれなく全員が『天国なクッキー』と『地獄のクッキー』を味わった。

 途中で半分のクラスメイトが「ごめん」「ちょっと急用を思い出した」と口を押さえて逃げ出した。拓斗も外れのクッキーを引いた瞬間に「あ、これ俺に無理なやつだわ」と、笑顔のまま珍しく表情を引き攣らせて食べる手を止めた。

 教室に残った半分のクラスメイトたちが廊下の外に声がもれないよう、あまりの不味さに震えながら床に転がったり、机に突っ伏したりと堪えている中、変わりなく食べ続けているのは理樹だけだった。