クッキーはサクサクとした食感があり、噛むごとに口の中に菓子らしい甘さが広がった。普通にクッキーとして食べれるという予想を裏切る美味さに、理樹は内心ちょっと驚いてしまった。

「普通に食えるな」

 思ったままの感想をこぼすと、沙羅が「ありがとうございます」と言った。しかし、彼女は喜びや嬉しさといった表情は控えめで、何やら物言いたげにして申し訳なさそうに佇んでいる。

 理樹はその様子が少し気になったものの、腹が減っていたこともあって、もう一枚食べておくかと次のクッキーへ手を伸ばした。それを口に放り込んだタイミングで、沙羅が「実は」と静かに言葉を切り出した。


「ランダムで味が偏ってます」


 二枚目のクッキーは恐ろしいほど激不味だった。真顔のまま一瞬硬直してしまった理樹は、もはやなんの味かも分析不可能なクッキー食感の刺激物の咀嚼をひとまずは再開し、静かに己の中の疑問を思った。

 同じ生地から型を抜いているというのに、どうしてランダムに天国と地獄の温度差の菓子が、同時に生まれるんだろうか?