視線をそのまま戻してみたら、沙羅の後ろに見える女子生徒たちが声を出さないまま、「眉間の皺ッ」とジェスチャーで注意してきた。男子生徒たちも、身振り手振りで「せめて顰め面はやめてあげて」「なんて無愛想なんだお前はッ」と全員が沙羅を気遣うよう指摘してくる。

 教室に俺の味方がいない。

 というか男子、お前らなんでそうやって彼女の味方をするんだ、俺の状況が我慢ならないとか言ってなかったか特に木島。

 顰め面のまま視線を沙羅へと戻した際、彼女も前世と名前が同じであることを、なんとなく思い返してしまった。この世界とは違う横文字綴りの『サラ』が、『沙羅』になっただけだ。
 同じ顔、同じ髪、そして空色の瞳の色だけが違っている。


 菓子なんて作れない女だった。前世で生きていた世界にもクッキーは存在していたが、彼女は挑戦するたび未知の物体を作り出していた。子供が離乳期を過ぎたら食べさせてあげたいのに、とよく泣いて、夫のほうがお菓子作りが上手だなんて……と項垂れていた。