その様子を見ていて拓斗が、「ははは」とこっそり笑った。

「なぁ理樹、あれって返ってバレバレな感じじゃね?」
「…………本人たちは完璧にやってるつもりなんだろ」

 感情が隠しきれなさすぎて違和感が凄まじい。もう放っておけばいい、と理樹は投げやりに片手を振って呟いた。

             ※※※

 理樹は四時間目の授業を受けている時、一組と二組の女子生徒が調理実習をしていることをキレイに忘れていた。倫理担当のベテラン男性教員、沢田(さわだ)の、五十代という深く落ち着いた声色に眠気を誘われた。

 ようやく終業を告げる鐘が鳴り響いて、沢田が少ない教材を抱えて教室を出て行った。
 普段ならすぐに席を立って廊下に飛び出して行く男子生徒たちや、それぞれのグループで動く女子メンバーが、雑談しながら珍しく教室内に留まる。女子の視線がチラチラと教室の開けられた出入り口に向けられて、それから理樹を盗み見る。

 その様子を拓斗が横目に留めて、呑気な顔で一つ頷いた。