早速鳴海に、帰ってきた玲夜を紹介する。
鳴海は玲夜に恐縮し通しで、ペコペコと頭を下げていた。
なにやら自分との態度が違う気がして、柚子は複雑な気分だ。
あやかしが嫌いなのではなかったのではないのか。
鳴海も玲夜の美しさの前にひれ伏してしまったのだろうか。
「あなたが、あいつを追い返してくれたと聞きました。それに、両親のことも守るように手配してくれたのはあなただって。なにからなにまで、本当にありがとうございます」
その言葉で合点がいく。
これまでの対処と、鎌崎を一蹴してしたので玲夜に好印象を抱いたというところか。
実際に、柚子に対しても鳴海は態度を軟化させてきている。
「礼は柚子に言え。お前を助けると判断して動いたのは柚子だ。俺は柚子が望んだからにすぎない」
そう言って柚子に優しく微笑みかける玲夜を、鳴海は悲しげな表情で見ていた。
悔しいという方が正しいかもしれない。
「……あなたみたいなあやかしもいるんですね。あやかしは皆あいつみたいな奴らばかりかと思ってました。花嫁のことを自分の所有物と感じているような最低な奴らだって」
「玲夜は私を所有物なんて思ったりしないよ」
柚子が否定したにもかかわらず、玲夜は反対の言葉を口にする。
「いや、思ってるぞ」
「えっ」
しれっと答える玲夜に、柚子がなんとも言えない顔で固まった。
「柚子の体も髪も目も唇も全部俺のものだ。所有物というならその通りだ。その代わり、俺も柚子の所有物だがな」
「玲夜……」
あまりにも色気を漂わせる玲夜に、柚子だけでなく鳴海まで顔を真っ赤にしている。
できればこういうことはふたりきりの時に言ってほしかった。
恥ずかしすぎる。
鳴海にどんな顔を向けたらいいのか分からず、柚子は両手で顔を覆った。
からかうような笑みを浮かべながら、横に座る柚子を抱き寄せ頭にキスをするものだから、柚子の羞恥心は最高潮だ。
柚子にとことん甘い透子たちならば、またやってるぐらいにしか思わないだろうが、初見の鳴海には免疫がなく。
ひどく居心地が悪そうにしていた。
「玲夜、お願いだから鳴海さんの前では止めて……」
消え入りそうな声で願えば、しぶしぶという様子で手を離された。
柚子はほっとして、まだ赤らめた顔のまま鳴海に向き合う。
「鳴海さんのいう、あの人は一応玲夜がおいかえしちゃって、結局話にはならなかったの、ごめんね」
『いや、そうでなくとも会話になっておらなかった。あやつ、前に柚子にストーカーしていた教師と同じ匂いを感じたぞ。完全に自分の世界の住人だったではないか』
「そうなの?」
鳴海がいぶかしげに視線を送ってくる。
「うん。鳴海さんと自分は本当は相思相愛なんだとか。素直になれないだけだとか」
「気持ち悪い……」
鳴海は吐き気をもよおしそうなほどに顔を歪ませた。
最近同じような目に遭った柚子には気持ちが大いに分かる。
柚子のトラウマまで刺激されそうだ。
ああいう輩には二度と会いたくないと思っていたのに、そう時を置かずして出会ってしまった。
自分が相手でないことが幸いだろうか。
いや、鳴海にとってはこれ以上ない不幸だろう。
「あれは一筋縄ではいきそうにないね」
「そうなのよ。何度か話した時も、人の話を聞かないし、自分主導で話を進めるから、全然話にならないのよ。こっちは何度も根気よく話していても無駄に終わってばかりで……。最終的には花嫁だからで全部終わらせちゃうのよ」
鳴海は頭を抱えたが、相手がそのような調子では抱えたくもなるだろう。
「時には脅迫したり、声を荒げて威圧してくるから、私も怖くてびびっちゃったりして。それが余計につけあがらせちゃう結果になってるんだと思う。私がもっと毅然と対応できたらよかったんだけど、あっちは柄の悪そうなつき人も一緒だったから……。ほんと悔しい……」
「大人の男の人相手ならなら仕方ないよ」
自分の言葉が慰めになっているか分からないが、投げかけることしかできない。
「とりあえずゆっくりしているといい。脅しておいたから、この屋敷に近づいてきたりはしないだろうからな」
「本当にありがとうございます」
鳴海は玲夜に深々と頭を下げた。
そして、恥ずかしそうにしながら、やっと聞き取れる声で柚子にも「あんたもありがと」とつけ加えた。
鳴海にはこれまで散々な言われようだったので、本人も柚子には感謝を伝えづらいのかもしれない。
そう思うと、なんだか温かな気持ちになった。
「どういたしまして」
柚子は嬉しそうにそう返した。