断ろうと思った。
別れたけど、私はずっと乙和くんが好きだから。
けれども彼は来るようになった。
ずっと来る。
休み時間になると私に会いに来るようになった。
移動教室の合間でくる。
例え向こうが体育でも、「小町さん」と会いに来る。「よぉ、乙和」と、たまに狭川くんは乙和くんにも話しかけていた。
見る限り、狭川くんは乙和くんの友達らしく。
結局、初めて会話をしてから数日後、お昼休みに捕まってしまった私は、狭川くんとお昼を共にする事になり。
「小町さんって長いから、はるって呼んでもいい?」って聞かれた時には、もう心の中が嫌で仕方なく。
「あの、」
「ん?」
乙和くんと別れてからあまり食欲がない私は、おにぎり一つだけだった。
「どうして最近、関わってくるの…?」
私の質問に、目を大きくさせ驚いた顔をする狭川くんは「え?!」と、大きな声を出す。
なんで驚いているか分からない…。
「俺、結構はるちゃんにアタックしたつもりなんだけど。もしかして気づかれてなかった?」
アタックしたつもり?
それは…
「普通に好きだから、付き合いたいと思って」
付き合いたい?
私と?
乙和くんのブランド…
私が黙っていると、狭川くんは「だって、乙和と付き合ってたし、すげぇいい子なんだろうなって」と、大好きな人の名前を出してきた。
「…私が乙和くんと付き合ってたから?」
「あー、そういうのじゃない。なんつーか、お墨付きって言い方が合ってんのかな」
お墨付き?
「はるちゃんはまだ乙和のこと好き?」
その質問にも、黙り込む。
「だったら、俺が忘れさせてあげる」
やめて…。
「聞いた話、乙和のやつ、無理矢理はるちゃんと別れたんでしょ?女の子を傷つけるのはなぁ…」
やめて。
こんな人が、乙和くんの友達だなんて…。
関わりたくもない。
「狭川くん、乙和くんの友達…?」
「え?ああ、うん、同じ中学だし」
「友達なら乙和くんの言うこと、悪く言わないで」
私がゆっくり下から狭川くんを睨みつけると、狭川くんは目を瞬きさせた。
「…ごめん」と、謝ってきたけど、ここにいるのがイヤでイヤで。立ち上がりこの場を去ろうとした私を「まって」と引き止める。
「はるちゃんが乙和のこと、まだ好きなのは分かった…。けど俺も好きだから」
「まだじゃない…、ずっと私は乙和くんの事が好き…」
「…」
「…ごめんなさい…、」
「そんなに、乙和のこと好き?じゃあなんで別れたの?」
なんでって…。
「乙和、俺がはるちゃんに会いに来るたびに見てくるから」
聞きたくない…。
「乙和、言ってきたよ。俺に。半端な気持ちではるちゃんに近寄らないで欲しいって。ほら、俺ちょっと遊んでた時あったから」
やめて。
「明日も、誘いに行く」
「来ないで…」
「乙和からちゃんと許可貰う。ってか、元彼に許可っている?」
「やめて…」
「やめないよ。俺はるちゃんが欲しいもん」
私は今度こそ、彼から離れた。
「大好きだよ〜」
校舎内に響き渡るように大きな声を出した男。
その現場を乙和くんに見られていることに知るよしもなく。
この時、狭川くんが何を考えていたのか、今の私には分からなかった。