「‥‥‥」

先輩はなにも言わず、転がった野球ボールを右手で一球拾った。そして胸ポケットからマジックを取り出し、野球ボールにすらすらと文字を書いた。

「恵、これが俺の気持ちだ」

アンダースローで投げた先輩の野球ボールが、スローモーションのようにふわふわと私に向かってくる。

「えっ!」

私は向かってくるスローモーションのような遅いボールを、危なげにキャッチした。

【俺も、好きだ。中学のときから、ずっと】

「えっ‥‥‥」

白い野球ボールに書かれていた言葉を見て、私の目に涙が溢れた。

「先輩‥‥‥」
青く澄み渡った、夏空の下。中学のときから続けていた私の片思いが,今やっと叶った。