「で、野球のどういうところが好きなの?」

「えっ!」

彼にそう質問され、返答に困る。

ーーーーーほんとうは野球なんかよくわかんないし、興味もない。
でも彼に嫌われたくなかった私は、「金属音が耳に残るのがとても好きです」と、とっさにウソをついた。

ーーーーーああ、野球よりも、吉田先輩の方が好きですって言いたい。

「へぇ、俺と一緒じゃん。俺も野球を始めたきっかけはテレビでもなく、あの耳に残る金属音だったんだよ」

「えっ!」

てきとうにうそをついた私の意見が、彼と同じだったことに驚いた。そして、すごくうれしかった。

ーーーーーー今なら、彼に想いをぶつけられそう。

そう思った私は、心の中で彼に想いをぶつけることを決めた。

「あの、先輩。私、野球よりも、先輩の方が‥‥‥」

「だから、中学野球最後の夏の大会、絶対にこの仲間と優勝したいんだ。俺は野球推薦で東京の高校に行ってしまうから、地元の仲間と野球やれるのはこれが中学最後の夏なんだ」
「‥‥‥」

それを聞いた瞬間、私は最後まで想いを口にすることはできなかった。

「で、なんか言った?」

「いえ。夏の大会、がんばってください。先輩」

「ありがとな」

青く澄み渡った、夏空の下。せみにの鳴き声に呼応するように、私の心は切なく泣いていた。