「約束通り、来たよ」

「約束‥‥してないよ」

翌日。彼は、ほんとうに保健室に来た。

「マラソンの授業、サボっていいの?」

私は読んでいた文庫本を両手でパタンと閉じて、彼に訊いた。

私の読んでいる本は、重い心臓病で余命わずかながらも、毎日やさしくお見舞いに来てくれる担任の男性教師に片思いをしてしまった、先生と、生徒の恋愛小説だ。

「ケガしたんだから、保健室に来たんだろ」

彼は昨日と同じ、ケガの右足を話に見せた。ばんそうこうは貼っていなかったが、かすり傷があった。

「それぐらいなら、授業に戻った方がいいよ」

彼に、優しくしてもらいたくなかった。それは、彼の大切な時間を私がうばっているような感じがしたから。

それでも真夏君は、「もしも喘息が治ったら、冬ちゃんは一番なにがしたい?」

と、やさしい口調で、自分勝手に質問をした。

「えっ!」

私は、目を丸くして驚いた。そして、「外で思いっきり運動してみたいかな?冬は、嫌いだけど」

私は雪が降っている、外の景色に視線を移した。

「ふーん、そうか。でも僕は、冬が好きだけどなぁ‥‥」

「えっ!」

一瞬、私のことを言ってくれたのかと思って心臓がドクンと音を立てたが、彼の視線は私と同じ名前の外の冬の景色に向けられていた。

ーーーーーー違った。

空から降っている雪が、今の自分の気持ちを表してるように見えた。