「よっ!」

「え!」

数時間後に目を覚ますと,私の瞳に右手を軽く上げている山本真夏君の姿が目に映った。私の頬が,赤くなった。

「ど、どうして?」

私の彼に対する、第一声がその言葉だった。

「ケガしたから、保健室に来た。ダメなのか?」

真夏君はひざにばんそうこうをはってある、右足を私に見せた。

「べつに、そういうことでは‥‥‥」

「そんなことより、冬ちゃんはいろいろなことを日記に書いてあるんだね」

と、私の日記を右手でつかみながら笑顔で言う、真夏君。

「見ないで」

私は慌てて、日記を取り上げた。

「えっ!」

目を丸くして驚く、真夏君。

「ど、どこまで見たの?」

今の私の顔は、きっと真っ赤になっていただろう。

「冬が嫌いとか、喘息が治りますようにとか」

真夏君は、日記に書いてあったことを思い出しながら答えた。

ーーーーーー読まれてないんだ。彼との恋愛日記。

私はそこだけ真夏君に読まれてなかったと思い、少しほっとした。が、同時に悲しくもなった。

「山本君。ケガの治療が終わったのなら、早くマラソンの授業に戻りなさい」

「はーい」

若い女性の先生に注意され、真夏君は間延びした返事をした。そして保健室から出ようとする直前、「明日も、来るから」と言って、笑顔でその場を去った。

ーーーーーーえっ!

彼の言ったことがどこまで本気かわからなくて、私の頭が真っ白になる。