「――それはダメだよ。君は、心の底から辞めたいなんて思っていない」

 呟いたわたしに、透はぴしゃりと言い切った。
 何も知らないくせに。たった数日会っているだけのくせに。

「俺もね、膝に爆弾を抱えているんだ。これからも跳び続けたいから、県代表を断って治療に専念している。本当は早く練習に参加したい。早く跳びたい。もう二度と県代表に呼ばれなくても、自分がやりたいことをしたい」

 努力なんて報われない。
 願って縋ったって救われない。
 自分で勝ち取れるものは片手に残ったらいい方で、すべてほしいと願うのは貪欲だ。
 ただ不思議と、彼が醜いとは思えなかった。

「今じゃなくていい。じっと待つことも大切だよ。この桜みたいに、春じゃなくても満開に咲く日が来る。――秋に咲いたこの狂い咲きだって、立派な桜じゃないか」

 狂い咲きは、「返り咲き」とも呼ばれている。食害に遭い、蓄えが不足していても耐え抜いて、周りに流されることなく、寒空を覆うほど立派に咲かせた桜を、努力以外になんと言おう。
 報われないものなんてないのだと、返り咲いた桜が証明している。
 透はそう言って、わたしの頬に触れる。

「悩んでもいい。でももっと自分を大切にしてほしい」

 知らぬうちに流してた涙をそっと拭われる。かすめた彼の手は冷たかった。