「……さくら。堀川咲良」
たぶん、彼の前で初めてまともに言葉を発したと思う。名前を名乗るだけで緊張する。彼じゃなかったら平気だったのに。
透は戸惑いながら言う。
「……驚いた。僕の妹も『さくら』なんだよ」
もしかして君が妹だったりして?
茶化すように言う彼は、心なしか嬉しそうに見える。
そうだよ、なんて言ってやらない。来年もまた、十月に咲いた桜を一緒に見たいから。
わたしは眠そうに目をふせた彼に向かって言う。
「心配しなくても大丈夫だよ。また来年会おうね。――お兄ちゃん」
【 十月の桜が咲く頃に 】 完