翌朝、久々に訪れた公園は、見違えるほど殺風景になっていた。

 十月の上旬に咲いた桜が、連日の雨風にあたって花びらが地面に落ちている。
 その木の下にあるブランコには、透が座っていた。いつもと同じ制服姿で、幾分かズボンの裾の泥が目立つ。
 私は隣のブランコに座ると、彼は少し驚いた素振りを見せた。部活のジャージでここに来たことはないから、新鮮に映ったのだろう。

「おはよう。今日は練習?」

 ううん。大会だよ。見学してくる。――そう答えると、透は「そっか」と目を細めて微笑んだ。

「君はまだ跳べる。踏み込める足があるんだから。そうそう、走り高跳びの醍醐味は、空中での姿勢をいかに維持できるか。それさえ掴めれば、きっと楽しくなってくるよ」

 そう言ってどこか羨ましそうな表情を浮かべる彼に、わたしは初めて問う。

 ――どうして、わたしが走り高跳びの選手だと知っているの? と。

 膝のサポーターだけなら、走ることに特化しているサッカーや長距離走といったものを連想する方が簡単だ。わたしは「部活」と濁し、怪我や練習についても詳しい話をしていない。それでも彼は的確に「走り高跳び」だと断言している。
 彼は一瞬固まって、言葉を探すように目線を泳がせた。俯きながらもようやく決心したのか、顔を上げて答える。

「知ってるよ。ずっと近くで見てきたんだから。俺はもう走れないし、少しでも背中を押してあげたいって思った。……もう、ここには来られないから」

 来られない?
 わたしが繰り返すと、透は少し困ったような顔をして告げる。

「俺はね、ずっと前に死んでいるんだ」