「全治二ヶ月のドクターストップです。次の大会まで時間がないのはわかりますが、これ以上動いたら、手術せざるえなくなります」

 壊れかけたクーラーの歪な音が頭に響く中、担当医はくたびれた白衣を揺らして席を立つ。告げられた言葉が受け止められなくて、わたしは頭が真っ白になった。
 (しつ)(がい)(けい)(えん)――別名「ジャンパー(ひざ)」。ジャンプや着地、長距離走行といった、膝の使い過ぎが原因で膝蓋(じん)(たい)に炎症が生じ、酷い場合は手術をしなければならない。

 きっかけは夏休みに入る少し前、陸上部で走り高跳びの練習中のこと。助走から踏み切ろうとした途端、左膝に激痛が走ってポールに激突した。その時はすぐに治まったから気にかけていなかったけど、練習を重ねるたびに痛みが生じたため受診したところ、体育の授業、部活や個人の練習すべてにストップがかかった。すぐそこまで迫っていた新人戦を前に、絶対安静を言い渡されたのだ。

 努力なんて報われない。
 願って縋ったって救われない。
 自分で勝ち取れるものすべてがほしいと願う自分は貪欲で、醜いと思った。