【誘い】

いよいよフアンが正式に「伯爵家当主」として認められようとする矢先、執事のゴランがアルに近づいてきた。
冷たい口調でありながら、どこか興味を引くような言葉を告げる。
「アル様、こんな噂をご存知ですか? 家を継げないほどの弱いスキルでも、伝説の滝で祈りを捧げれば力を得られる……という伝承が残っていると。」
アルはにわかにゴランの言葉に耳を傾けるが、半信半疑だ。
「……伝説の滝、ですか? そんなもの、本当に……」しかしゴランは続ける。
「諦めるには早いかと存じます。アル様が本当に当主の座を取り戻したいのであれば、最後の望みとして賭けてみる価値がありましょう。場所は王国の外れにある深い森の奥。その洞窟のさらに先に、神秘の滝があるとか。」
アルの胸に一筋の希望がよぎった。両親の遺志を継ぎたいと思いながらも、圧倒的な力の差と政治力を前に、挫折しかけていた自分。もし本当にスキルを“強化”できるのなら……。
「わかった。行ってみる……」 暗い表情でそう答えたアルに、ゴランは微笑みを見せる。
「よろしゅうございます。道中は危険が伴います。私が信頼する数人をお付けいたしましょう」
このとき、アルは彼らが雇った“お供”について深く疑わなかった。フ
アンの腹心がまさか自分を陥れるために罠を仕掛けるとは夢にも思わず、彼らの厚意をありがたく受け取ることにしたのである。