【成長】
スキルの儀式後、アルは8歳から10歳になるまでの間、フェルディナンド伯爵家の家庭教師たちから基礎学問や貴族の常識、魔法理論などを学んだ。
前世の知識もあって理解力は高く、文字の読み書きや計算、歴史などは難なく習得。元々そこまで勉強が嫌いな性格でもなかったので、むしろ学問としての魔法研究や剣術の理論はおもしろく感じた。
ただし、いざ実践となるとアルは苦戦した。
大貴族の子弟らが何気なく放つ攻撃魔法や補助魔法に比べると、アルの魔力量はそこまで多くない。さらに「トレーディング」というスキルは、実戦で直接的な攻撃力にはつながらないのだ。
周囲の子供たちと比べても、力の差は歴然だった。
そんなアルも15歳になると、正式に王都の魔法学校へ通い始めた。
名門フェルディナンド家の跡取りという名目もあり、学園の寮ではなく、王都に構えた家族の別邸から通学することになった。
王都の魔法学校は国内でもトップクラスの教育機関であり、入学できるのは貴族か、よほどの功績をあげた平民の子女だけ。そのため、在籍する生徒たちは高いプライドを持つ者が多く、とかく周囲の評価や出自を気にする雰囲気があった。
当然「ゴミスキル貴族」としての噂はあっという間に学内に広まる。
表立ってバカにする者もいれば、陰でコソコソとアルを笑う者もいた。中には面白がって「なあ、おまえのスキルで何か交換してくれよ? 俺の汚い靴下とおまえの……金貨でどうだ?」などとからかう者もいた。
アルは最初こそ「交換の対象に貨幣は使えないんだよ」と真面目に返していたが、彼らがそれを理解しようとはしないし、もともと茶化すのが目的なので埒があかない。次第にアルはクラスメイトとの交流を必要最低限に留め、自由時間は図書室で過ごすことが増えた。
学生生活の中で、アルは少数ながらも理解を示してくれる生徒に出会うこともあった。
例えば同じクラスのマリエという女の子は、アルの扱いがひどいときに「貴方たち、失礼だわ」と注意してくれたし、他の優しい心を持つ生徒もアルに声をかけて励ましてくれたことがある。
もっとも、そういった一部の好意は、学園で目立つ“いじめ”の勢力の前ではあまり強い効果を発揮しなかった。
アル自身も劣等感と戦いながら日々を過ごしていたが、それでも前世での経験もあるからか、そこまで酷くふさぎ込むことはなかった。
中学年から高学年にかけては、ある程度それなりの友人もでき、彼らとの協力学習で成績を維持することで、自尊心を保っていたのである。学校では王宮直属の教官や、歴史ある魔法師が教鞭をとり、魔法理論から戦略戦術まで幅広く学ぶことができる。
アルは“スキルに頼らない戦闘術や知恵”に関しては非常に熱心に研究していた。
そんな努力の甲斐あって、周囲から過小評価されていた割には、実践演習や座学の成績は中の上くらいをキープしていた。
しかし、学園生活で悩みが消えるわけでもない。
卒業後の進路を問われたとき、アルは「フェルディナンド伯爵家の跡継ぎ」としてどう振る舞うべきなのか悩むようになった。
名門の家名を継ぐには、家を守るだけの力や威厳を示さなければならない。
優秀な従者や部下を率いるにも、ある程度“強いスキル”や魅力が必要なのが、この世界の常識だったからだ。
アルは、父と母の言葉を信じて「いつかこのスキルが役立つ瞬間が来るんだ」と心のどこかで願うようにしていた。
スキルの儀式後、アルは8歳から10歳になるまでの間、フェルディナンド伯爵家の家庭教師たちから基礎学問や貴族の常識、魔法理論などを学んだ。
前世の知識もあって理解力は高く、文字の読み書きや計算、歴史などは難なく習得。元々そこまで勉強が嫌いな性格でもなかったので、むしろ学問としての魔法研究や剣術の理論はおもしろく感じた。
ただし、いざ実践となるとアルは苦戦した。
大貴族の子弟らが何気なく放つ攻撃魔法や補助魔法に比べると、アルの魔力量はそこまで多くない。さらに「トレーディング」というスキルは、実戦で直接的な攻撃力にはつながらないのだ。
周囲の子供たちと比べても、力の差は歴然だった。
そんなアルも15歳になると、正式に王都の魔法学校へ通い始めた。
名門フェルディナンド家の跡取りという名目もあり、学園の寮ではなく、王都に構えた家族の別邸から通学することになった。
王都の魔法学校は国内でもトップクラスの教育機関であり、入学できるのは貴族か、よほどの功績をあげた平民の子女だけ。そのため、在籍する生徒たちは高いプライドを持つ者が多く、とかく周囲の評価や出自を気にする雰囲気があった。
当然「ゴミスキル貴族」としての噂はあっという間に学内に広まる。
表立ってバカにする者もいれば、陰でコソコソとアルを笑う者もいた。中には面白がって「なあ、おまえのスキルで何か交換してくれよ? 俺の汚い靴下とおまえの……金貨でどうだ?」などとからかう者もいた。
アルは最初こそ「交換の対象に貨幣は使えないんだよ」と真面目に返していたが、彼らがそれを理解しようとはしないし、もともと茶化すのが目的なので埒があかない。次第にアルはクラスメイトとの交流を必要最低限に留め、自由時間は図書室で過ごすことが増えた。
学生生活の中で、アルは少数ながらも理解を示してくれる生徒に出会うこともあった。
例えば同じクラスのマリエという女の子は、アルの扱いがひどいときに「貴方たち、失礼だわ」と注意してくれたし、他の優しい心を持つ生徒もアルに声をかけて励ましてくれたことがある。
もっとも、そういった一部の好意は、学園で目立つ“いじめ”の勢力の前ではあまり強い効果を発揮しなかった。
アル自身も劣等感と戦いながら日々を過ごしていたが、それでも前世での経験もあるからか、そこまで酷くふさぎ込むことはなかった。
中学年から高学年にかけては、ある程度それなりの友人もでき、彼らとの協力学習で成績を維持することで、自尊心を保っていたのである。学校では王宮直属の教官や、歴史ある魔法師が教鞭をとり、魔法理論から戦略戦術まで幅広く学ぶことができる。
アルは“スキルに頼らない戦闘術や知恵”に関しては非常に熱心に研究していた。
そんな努力の甲斐あって、周囲から過小評価されていた割には、実践演習や座学の成績は中の上くらいをキープしていた。
しかし、学園生活で悩みが消えるわけでもない。
卒業後の進路を問われたとき、アルは「フェルディナンド伯爵家の跡継ぎ」としてどう振る舞うべきなのか悩むようになった。
名門の家名を継ぐには、家を守るだけの力や威厳を示さなければならない。
優秀な従者や部下を率いるにも、ある程度“強いスキル”や魅力が必要なのが、この世界の常識だったからだ。
アルは、父と母の言葉を信じて「いつかこのスキルが役立つ瞬間が来るんだ」と心のどこかで願うようにしていた。

