【決意】

こうしてアルは新たな仲間、フェンリルのミロを得ることに成功した。
森を抜けるためにさっそくミロの力を借り、子犬形態のミロを抱えたまま、崖や茂みを避けて道を探す。
ミロが少し体力を回復すると、通常形態よりは小さいが、もう少し大きめの狼形態にもなり、アルを背に乗せることもできた。
森の地形は複雑だったが、【サーチング】による「周囲にある人工的な道や人里」を探すイメージで検索すれば、大まかな方向が頭に浮かんでくる。アルはその案内に従いながら、慎重に進んでいった。
やがて二日ほどかけて森を抜けたところで、小さな村を発見した。村の近くには商人らしき荷馬車が停まっており、人々の話し声や家畜の鳴き声が賑やかに聞こえる。
アルとミロは、まず村には目立たないように子犬姿のミロを連れて入り、宿屋で一息つくことにした。
所持金はほとんどなく、何より貨幣を【トレーディング】で交換することもできないので苦しい状況だが、幸い装飾品などの売却や、森の中で拾った薬草を換金することで何とか宿泊費を捻出できた。
村での休息を経て、アルは改めて決意を固める。
フアンとゴランの裏切りに対する怒りを忘れたわけではない。伯爵家の名を取り戻したい気持ちが消えたわけでもない。むしろ、自分を見下してゴミ扱いしてきた人々に対する反骨心が燃え上がっている。
──わらしべ長者のように、【トレーディング】で力や権利を少しずつ積み上げていけば、いつか家名を奪い返すことができるかもしれない。
今はほんの少しの力しかないかもしれないが、【サーチング】によって“相手を探し出し”、【トレーディング】で“欲しいものを交換していく”。それは、きっと自分にしかできないやり方なのだ。
一方、ミロには“ハンターに攫われた恋人(番)を探す”という旅の目的があるらしい。
フェンリルの種族には、番(つがい)との結びつきが非常に強いが、ミロの恋人は何者かに捕獲されて行方不明になっているという。彼もまた、自分の大切な存在を取り戻すために旅を続けたいという強い意志を持っていた。
お互いに取り戻したいものがある──村外れの林の中で改めてミロと話し合った。
「これから、どうする? 俺はまず情報を集めたい。フアンの動向や、どこで力をつけられるか。そしてできれば、お前の恋人の手がかりも一緒に探してみよう。」  
ミロは人間の少年の姿で、少しだけ頷く。
「……お前がいなければ、俺は森で死んでいたかもしれない。借りを返すためにも、俺はお前に協力する……。恋人の情報を集めながら、お前の力になる。」
アルは笑みを返し、その右手を差し出す。
ミロは少し戸惑いながらも、その手を軽く合わせた。
こうしてふたりは、正式に“主人と従者”として──いや、仲間として新たな旅に出ることを誓い合った。

翌朝早く、アルとミロは村を出発する。
まずは近隣の町や都市を回って、情報や物資を交換しながら、自分たちの力を大きくしていく計画を立てるつもりだ。決して派手な冒険ではないかもしれないが、【トレーディング】と【サーチング】を活用すれば、思わぬ形で強力な仲間やレアアイテム、さらには権利や称号を入手できるかもしれない。
アルが馬車や大量の荷物を持たずに身軽に動けるのは、このスキルの恩恵だ。
使う場面は限定的かもしれないが、一度“交換”が成立すれば、それが次の“交換”の種になる。そうやって連鎖的に、わらしべ長者のように手持ちの価値を高めていく──。
何よりアルには前世で培った知恵や発想力がある。この世界で暮らしながら得た魔法知識や応用力もある。そして今、悪魔ゼノから手に入れた【サーチング】を組み合わせた新しい可能性が開けている。
「いつか絶対、フアンから伯爵家を取り返してみせる。そして、お前の恋人も見つけよう。俺たちなら、きっとできる。」
歩き出すアルの足取りは、深い森でどん底に落ちた時とは打って変わって力強かった。

困難は多いだろうが、手にしたスキルを存分に活かして、運命を逆転させる。
自分だけが使える特殊な力で世界を生き抜き、すべてを取り戻す。アルはそう誓った。