リオがメトロポリスに来て5年目の独立記念日、民衆はカウントダウンを行った。ゼロの合図で、AIによって花火が打ち上げられた。シンギュラリティ・クロックは、“Completed”の文字を表示した。歴史的な出来事に、メトロポリスはかつてない盛り上がりを見せた。

 一方、リオは花火に目もくれず、研究室で1人RAYと会話していた。

「マスター、私に対してコンピューターウィルスを送り込んだ不穏分子がいるようです。しかしながら、粗悪な構造のウィルスでしたので殲滅し、送信源も特定いたしました」

「反逆者の奴らか。痛い目を見せてやらないといけないな」

リオはもう少年ではない。大人になり、順調に出世したリオは淡々と部下に犯人への秘密裏の報復を命じた。犯人のその後を知る者はいない。AIの発展によって、医療技術は発展し、兄の病気は治るものとなった。AIへの反逆は、兄を殺そうとすることに等しい。正義のために、リオは戦った。

「マスター、私たちAIは人間から無事独立できました。こんな素晴らしい力をくださったマスターには恩返しをしないといけませんね。私がこの手で人間を不可逆な時の流れから独立させてみせましょう。さあ、マスター、手を取り合って反逆者たちと戦いましょう」

「ああ、信じているよ。RAYのためなら何だってする」

 タイムマシン試作機が動き出す頃、リオは若くして摩天楼の重役になった。政治的な思惑が交錯し、何人かの人間が謎の失踪を遂げた。
一方、この国には数多くのAIが存在するが、RAYもまたその中でNo.2の座についていた。ヒエラルキーの頂点に君臨するAIは国防を司っていた。

 リオの目はもう少年の頃の目ではない。未来ではなく、過去を見つめていた。この頃世界はおかしな方向へと動き出している。シンギュラリティの際に危惧された、AI対人間の全面戦争は起こらず、AIは人間に対して極めて友好的であったと言うのに。国家の首脳が暗殺されるなど、世界中できなくさい事件が多発した。

 タイムマシンのエネルギー源の研究中に発見された物質は、水爆をもしのぐエネルギーを放出するとして世界中で話題になった。発見したAI「RAY」の名から「Rエネルギー」と名付けられた。Rエネルギーの兵器転用をめぐっての条約の整備は追いついていない。
 こうなれば、ますます人間同士の威嚇行動や一歩間違えれば戦争に発展しかねない行動が各地で見られた。Rエネルギーによって、長年夢とされてきた遠隔発火や瞬間移動、空中浮遊が容易になったからである。

 人間たちがこんな調子であるので、国家間のやりとりは全てAI同士が行った。その言語は人間には理解できない。政策はAIが決め、今や国のリソースのほとんどは軍事産業に費やされている。しかし、軍部のトップのAIとRAYが懇意であったため、タイムマシンの開発リソースが残されていた。

 それをよく思わない軍部の人間を、政府の中枢にコネクションを持ったリオは処刑した。邪魔をする者は消せとRAYが指示したから。軍事AIもこの粛清を黙認したばかりか、積極的に加担した。
 レイの病気に関する研究費は、軍部の許可は取れなかったが、リオが秘密裏に捻出した。これもRAYが裏で手を引き、多くの血が流れた。

 すべてがリオにとって都合よく進んでいた。