背中を張り付けた壁に、自分の脈動が移ってしまったようだ。
今目にした、愛しい子。
「何でここにいんだ……」
ここは紛れもなく病院。しかもかなりの病床数を誇る大病院だ。
「まさか……傷、治らなかったとか……」
いや、あの折の傷は完治させたし、今も調子が悪そうなところはなかった。
「にしても」
何で。
逢わないと決めた子に、逢ってしまうのだろう。
そこにいたのは間違いなく真紅だった。
昨日、気紛れに見つけて本心から助けた子。
真紅に似た長い黒髪を見ただけで心臓が跳ねた。まさか本人ではないだろうと思って、でも真紅だったら……そんなことを思い、書類に顔を伏せ気味に廊下の端を通り抜けた。
真紅は何やら売店の袋を下げて、憂い気な顔をしていた。
……もしかして自分を?
そんなことを思ってしまった。
あの憂いの理由が自分だったら?
もう逢えないものと思っているから? ――いや、だからそんなことを。
考えるな。
考えては駄目だ。
あの子とは一緒にいてはいけない。
恋しいなら、愛しいなら。
だからあの子に逢うことは出来ない。
愛したら殺してしまいかねない自分の血。
もう、感情についた名前は知っている。だから、ここで止まれ。