「……黎のことも教えてくれるなら」

「お前結構口上手いな」

「どうも」

「小埜黎。十九」

「二十代後半かと思った……」

「それはどういう意味?」

「黎さんが大人びているという意味です。それだけです」

年齢より年上……はっきり言って老けて見られるのは、俺はいつものことだった。けれど真紅に言われると……いじり甲斐がありそうだ。

「二十歳過ぎてたら承諾なしで婚姻届け出せたのになー」

「婚姻⁉ 黎、恋人いるの⁉」

あ、食いついてきた。予想外に反応が大きい。

「ちょ、何夜道ふらふらしてんの! 私彼女さんに申し訳ないことしてるじゃん!」

え。

「ちょっと、まこ

「駄目だよ彼女さんいるのに私にこんなことしたら、私顔向けできな

「落ち着けって真紅。彼女なんていねえし……」

真紅から離されようとした手を、摑み返す。震えていた。細く震えている。

申し訳ない? 顔向けできない? ……真紅に近づいたら、そんな風に思われるのか?

「……俺が真紅に浮気みたいな真似したから、申し訳ないって?」

「………」

真紅は首を横に振った。雫が飛んだ。泣いて……いるのか?

「黎に……彼女いる……いたら………私、……」

「うん。言ってみ?」

「彼女さんに、申し訳ない……」

「どうして?」

「こんな、優しくされたら………だめってわかっても………れいの、こと、………すきになっちゃうじゃん……」

「―――」

「だから、そういう人がいるんだったらもう私のこと……

「それって」

両手で真紅の頬を包む。上向いた真紅と視線が重なる。

「なりかけてくれているってこと?」