好きになった人は吸血鬼でした。―さくらの血契1―【完】


「一般的に言えばそうかもしれませんが、母上はこの時代に俺を産んでくださった。白のいる今に。それだけで、俺は十分です」

「………」

まことは女性であるのに、男としてしか生きる道のない白。母上にとっては、親友の愛娘。

「そういえば母上、どうやってここへ来たんです? 母上の使役(しえき)に時空の転移が出来るものはいませんでしたよね? 涙雨は遣いに出していませんが」

「水鏡繋いでぶち破ってきました。手っ取り早かったので」

「………」

水鏡は連絡手段なんだけどなあ……。微笑のまま固まる俺。……白の評通り、自分は、母上を越えられそうにない。

「そろそろ戻ります。本家もそのままにしてきてしまいましたから」

「すぐに戻った方がいいですよ。母上待望論も多くありますから」

母上は納得のいかない顔でこちらを見返してから、手の中で術式を発動させた。

人を覆うほどの水鏡が出現して――普通の人には視えないもの――、母上は俺を振り返った。

「出来ることなら、お前も一緒に暮らしてほしいものです。本家でとは言わないから、考えておきなさい」

そのまま、水鏡の鏡面に姿を消した。

母上の影までが鏡に呑まれると、水鏡は霧散した。術式の残滓を手中に収めて、握りつぶす。

「俺は一人のが合ってるんですよねえ」

白以外といるのは、なかなか苦手なんです。


母上の目覚め、そして始祖の転生があることが知れると、俺の周りは一気に慌ただしくなった。

俺が転生を保護していると、すぐに知れ渡ったからだ。

一目逢ってみたい、どのようなお人なのか、と、俺への文が山と届いたのだ。

「おーおー、真紅は大人気だなぁー」

小路一派の各家から届く文をまとめてぐしゃりと潰して、庭で水やりをしていた縁に声をかけた。

「縁―、暇なときでいいから、これ燃やしておいてくれ」

「これ? ……いいの? そんなの燃やしちゃって。黒藤がそんな態度だから陰口叩かれてんのよ」

腰に手を当てて怒る縁だが、俺にダメージはない。

「ごみだ。ちょっと出てくるから、留守番頼む」

「わかった。昏くならないうちに帰ってきてねー」

「おう」

一つ肯き、羽織を手にして庵を出た。


私とママは、二人のいたアパートから一番近い、影小路所有の家で暮らすことになった。もちろん紅緒様も一緒だ。

紅緒様が早々に――意識を取り戻した日に――決めて来たので、私もママも、それぞれ住んでいたところから直接、影小路の家に移ることになった。

「真紅ちゃんの方から引っ越ししちゃいましょうね」

ママの提案で、そうなった。

「え、黎?」

ママのアパートから住んでいた方へ戻ると、そこには黎がいた。

「引っ越し、手伝えることがあったら思って」

「あ、ありがとう……。病院とか学校は大丈夫なの?」

「ちゃんと暇もらってきた。そしたら架までついてきてなー」

「主家の大事だ。出奔(しゅっぽん)した兄貴にばかり任せるわけにはいかない」

真面目な顔で言うのは、桜城くんだった。桜城くんには、転校することは伝えてある。飲み下しきれない顔をされたけど、それだけだった。

「黎くん、架くん、ありがとうね」

今、一緒にいるのはママだけだ。紅緒様は、これから住む家の方で準備をしているそう。

家具なんかは持って行く必要ななさそうなので、本当に身の回りのもの、着替えやら学校のものだけだいいようだ。

「いいえ。こちらが勝手にやりたいだけです。お邪魔でなければいいのですが」

「そんなことないわ。ほんと……真紅ちゃんのために、ありがとうね」

ママは、穏やかに話しかける。私はママの思いがありがたい一方、この双児の妹はあれだからなあ……という複雑な心境だ。

「黎……紅緒様には逢いにくくない? 大丈夫?」

「んー、また怒られる心配はあるけど、でも、真紅に逢いたかったし」

「黎……」

二人の空気を作っていると、黎の隣にいた桜城くんが居心地悪そうに咳払いした。

が、それを気にする兄ではなかった。一方の私ははっとして、慌てて視線を逸らした。早口で照れ隠しをする。

「あ、ありがとう。一緒に来てくれれば、新しい家の場所もわかるよね」

黎は、私の照れように苦笑してから、手を取ってそっと囁いてきた。

「うん。何度でも、逢いに行くから」







END.


最後までお読みくださりありがとうございます!
お疲れ様です。さくらぎ ますみと申します。


ノベマ様での前作、『桜の鬼』に続き和風・あやかしファンタジーをお送りしました。


こちらは過去に完結しているお話で、第二話も完結済みなので、こちらに続けて公開しようと思っております。


そして現在、第三話の下書きをしています。


こちらに出てきた白桜と黒藤は、二人がメインのお話もあります。
『月華の陰陽師』といいます。


そこに至るには『朧咲夜』も絡んでくるので、『さくらの血契』→『朧咲夜』→『月華の陰陽師』の順で公開するつもりです。


ここまでお付き合いくださり、本当にありがとうございます。
それでは、また!

2022.10.28
桜月 澄

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