「――――っ⁉」
血が、逆流する。
いきなり襲って来た感覚に、胸元を摑んで膝を折ってしまった。
場所が院長秘書室だったのは幸いか。病棟でこんなことになっていたら……。
今は誰もいない。院長である澪の父も、澪も、院長秘書も。土曜日の昼の少し前の時間、一人で雑務をしていた。
な、んだ? これは……。
血が焼かれているようだ。思わず咳込んでしまう。
手で口を押さえようとして、はっとした。
――……血?
口を押さえた手が、まだらに紅く染まっている。
咳込みは続く。手では押さえきれなくなって、一際大きく咳込んだとき、床にまで飛び散るほどの血がこぼれた。
血が焼かれていく。もしかして今、真紅の血が覚醒されたのだろうか。
「……は……」
思わず苦笑がもれる。
短い時間でさえ、あの子の傍は許されなかったのか。
桜城の家とは縁切りして、退鬼されるまでの少しの時間でも傍にいられたらと願った。真紅に出逢えたことだけでも幸福だと思って、死ぬことに諦めるつもりだった。
だが、そうするなと本人が厳しく言って来た。