「だから服を脱げと言ってるだろうが!」
「この状況で誰が脱ぐか! 変態!」
「この状況だから言ってんだろ! 血まみれで帰る気か、バカ!」
とんでもないことを言うヤツを前に、私は自分の身体を抱きしめるようにして叫びかえす。
なんでか知らないけど、私は病院からの帰り道の林道で倒れていて、意識が戻ったら血だらけで、目の前には見知らぬ男がいて、こんな変態なことを言ってくるんだ。まさかこいつ……通り魔とか⁉
に、逃げなくちゃ……そう思うのに、私は服を真赤に染めて、しかし立ち上がれもしない。出血が多すぎるのか、目の前がぐらぐらしている。
そんな私の前に座り込んでいるのは、月でも切り取ったようなパッと見は美麗な男。言っていることだけ聞いたら通報モノの不審者だけど。
私と不審者が叫び合う――この状況の理由も、実はよくわからない。
海雨(みう)の病院から帰って来た記憶はある。でも、途中で意識と記憶がふっと途切れている。
そして目が覚めた私の服は赤黒い血で染められていて、背中に走っている傷の痛み。
この不審者の手を借りなければ、眩暈(めまい)が非道くて座っていることも出来ない状態だ。
実際、今も自分を抱きしめている片腕を、不審者に掴まえられていてやっと倒れないでいられるくらい。
意識を失っている間にどうやら私は、目の前のムカつくくらい、本当に腹が立つほどの、こんな状況でさえなかったら見惚れていたような――美麗な『鬼』に助けられてしまったらしい。
私はついさっきまで、……死にかけていた。いや、正しくは殺されかけていた。……ようだ。
「てかあんま叫ぶな! ……ほら」
こんどは呆れたような口調で言われた。ぐらりと視界が回って、座っていても倒れてしまった。……美形不審者の腕に抱きとめられてしまう。不審者はため息を吐く。
「ただでさえ血ぃねえんだから、無駄に使うな」
「……うぅ」