びしょ濡れになった当たりの棒を軽く振りながら、陽太が戻ってくる。自分の自転車のサドルに跨り、カラカラと音を立ててペダルを空漕ぎしながら彼は言った。


「この音さ、あれに似てない? 福引のガラガラ回すやつ」


「えー? もっと派手なジャラジャラいう音じゃなかったっけ?」


 というわたしの反論はあっさり聞き流されたらしい。当たんねーかな一等賞。謎のメロディをつけたそのフレーズを、陽太は空漕ぎを続けながら呟いた。


「おれ、実はさ、初めてなんだ。こういうので『当たり』引くの」


「え、だって絶対当たり引く自信あるって」


「ん、あれ、嘘」


「なんだよー、屋上では大いばりで『王様を信じろ』とか言ってたくせに」


「あのさ」


カラカラカラ、カラ、カラ。


車輪の回る音が止まる。


 ふと、こちらを振り向いた陽太の顔は、いつになく妙に生真面目で。


 わたしの目は、少しだけうろたえる。


「何?」


「好きなんだよね」