「……ごめん、いきなりのさん付けキモい。ムカつく。吐きそう」
「やっぱり言ったよキモいって……って、あ、え? キモいのそこ?」
振り返った陽太はあまりにも混乱しきった情けない顔をしていて、思わずわたしは笑ってしまう。
「馬鹿はつけなかったよ」
でもきっと、今のわたしの顔も、陽太の顔に負けず劣らず火照りすぎて、その熱できっと情けない顔になっている。今が夜でよかった。
何を言ったらいいか分からなくて、鞄の中に手を突っ込み、むやみやたらにかき回す。
すると、爪の先に何かが当たった。
「……だから」
コレあげる。
何が「だから」なのか自分でもわからないまま、わたしは鞄の中から小さなブリキの丸缶を取り出して、陽太へと放った。
街灯の白っぽい光が、鈍い銀色の蓋の上でちらりと跳ねる。
「……何コレ?」
「ああ、ええと、吐き気どめ? 超強力薄荷飴」
「……なあ、蓋開けただけで、恐ろしいほどすげぇ鼻と目がすーすーするんだけど。いや、すーすー通り越して、なんかすでに粘膜が痛い……」
強すぎる爽快感に軽く涙目になった陽太が、「でも」と言って、手の中で丸缶を軽くバウンドさせた。
「さっき星野がコレ投げたとき、ちょっとだけこの缶、空飛ぶ円盤に見えた」
「だからそういう無駄なロマンティックキモい。ていうか、嘘でしょ……」
――当たった。
食べ終わったコーラ味アイスの棒を、わたしはそっと夜空にかざす。
「当たり」という文字の遥か上空を、小さな星が白く流れていった。