「……300秒って、どういうこと」


「おお、この状況で錯乱もしないし半狂乱で食ってかかったりもしない。さすがお医者様。クールだねえ」


「そんなことどうでもいい。なんなのこれ。あんたが彼に何かしたの?」


「何かした? はは、確かに今は時間を止めてるからなんかしたことになるけど。どっちかって言うと、なんかしたのは、君でしょ? それで」


 わたしの持つモノポーラを顎で指して、彼はふふっと笑った。


「……わたしのせいなの?」


 不意にめまいに襲われる。
 

 手術は完璧だったはずだ。でも、目の前で彼の鼓動は突然止まった。


 彼のバイタルサインを示すグラフは、全てが平坦に変わったまま静かに光り続けている。


 そうだ。


 ――助けられなかったのなら、完璧ではなかったということじゃないか。


 爪先から、ぐわりと、熱と氷の冷たさが交互に体を這い上ってくる。


 呼吸が浅くなる。


「おっとー、ここで君に過呼吸で倒れられるとかマジで困るから」


 時間ないんだよね案外。羽の生えた黒服の男は、セリフとは裏腹な呑気な声でそう言った。


「これはねー、君のせいじゃない。彼の寿命。プランAの方の」