「あー、重力まじでめんどくさい。これ下手に広げるとバランス取れないんだよね、よっこらしょ」


 その背中には、真っ白で大きな羽が広がっていた。


 男は、驚きで動けないわたしにへらりと笑いかける。


「ちょっとこの子退けるねー」


 そのまま、わたしの横で何かを叫ぶ顔をしたままマネキン化している藤原さんを、ひょいと持ち上げて、背後へと置き換える。


 開いたスペースに当然のように入り込んできたその男は、再びへらりと笑うと、仕立ての良さそうな細身のスーツのポケットから、何かを取り出して、わたしの目の前にかざした。


「ねえ、この砂が落ち切るまでの時間。300秒。君にあげようか。つまり」


 それはまるで万華鏡のように砂の輝く、小さな砂時計。




 ――あと五分だけ、その人の体、生かしてあげるよ。




「ってことなんだけど。……っと、その前に。誰だよお前、って顔してるねー。聞きたい? おれの名前」


 聞きたくない。


 わたしは強く首を横に振った。


 言われなくてもわかる気がした。


 あと五分だけ生かしてあげる?


 この異常な状況でかくも軽々しく吐かれる、希望に見せかけて人を嬲るような。


 そんなものは。


 間違いなく死神の言葉だ。もし本当にそんな存在がいるのなら。